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巡洋艦大淀 18歳での決意 [巡洋艦大淀]

 小淵氏は、18歳という年齢に未練がなく、 敗戦の日本に生きる意欲はありませんでした。  昨日まで、唯一の生きる支えとなっていた 厚木航空隊も、司令の発病で瓦解し、幕僚や 上層部は自決したり、逮捕されたということ でした。「国体護持・徹底抗戦」が叫ばれたのも、 束の間のことでした。  「日本は敗れてしまい、国家としては滅亡して しまった。どうして占領された日本に、おめおめ 生き長らえることができようか。事ここに至り、 祖国と運命をともにする、それが軍人としての さだめではないか。」  小淵氏は、18歳にしてこのような決意をして いました。様々な想念が幻のように脳裏を 横切っては消えていきました。  そして、小淵氏は、平野兵曹と爆死することが、 年若くして海軍に身を投じた自分の生を飾る 最後の最もふさわしいことになると思いつめて いました。  弾薬庫は暗く、通路からの明かりが、棚に 置いてある砲弾を照らしていました。装薬の 缶も並んでいましたが、装薬は信管がなければ 爆発しませんでした。徹甲弾の信管を外そうと 思いましたが、素手では取れませんでした。  工具を探していると、誰かが弾薬庫に降りて きました。これはまずいと思い、すばやく元通り にして、鉄扉をしめました。平野兵曹は、何食わぬ 顔で、呼びにきた兵の方へ歩き出しました。  呼びに来たのは、金子上水で、小淵氏と 同い年の朝鮮出身の志願兵でした。  彼は、真面目な人柄で、率先して励む 優秀な兵でした。同い年ということで、 小淵氏も特に親しみを感じていました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 丈夫玉砕すとも瓦全を恥ず [巡洋艦大淀]

 徹底抗戦、国士死守の張り詰めた気持ちが 消え失せたいま、若い兵士は、何に心の拠り所を 求めればいいのか。小淵氏は、丘に登って、 呆然と海を眺めていました。  大粒の涙が頬をつたい、頭がジーンと しびれてきました。小淵氏の心も体も、無限の 時空の中に吸い込まれてゆくような気持ち でした。いつまでも放心したままでした。  日没頃、砲台の最古参現役下士官の 平野兵曹が、小淵氏のわきに腰をおろして きました。平野兵曹は、「日本はとうとう負けて しまったなあ」と言って、涙を落としました。  小淵氏は、平野兵曹と一緒に転勤して きており、兄のような親しみを抱いて いました。しばらくすると、平野兵曹が、 弾庫に一緒に行こうと誘って立ち上がり ました。  小淵氏は、なぜと思いましたが、平野兵曹の 後について、後ろ姿を見ているうちに、決意が 胸に響くように分かりました。壕内は、裸電球が ぶら下がっているだけで、かなり暗くなって いました。  砲塔から、30mほど右に入ったところにある 横穴が、弾薬庫でした。ここは、鉄扉で固く 閉じられており、大型の南京錠が掛けて ありました。平野兵曹は、錠前を外しに かかりました。  やがて錠前は外れ、鉄扉が、重苦しい音を 残して開き、ひんやりとしたカビ臭い空気が 流れ出してきました。この弾庫に点火すれば、 二人は一瞬で砕け散ることができました。  小淵氏は、脳裏に「丈夫玉砕すとも瓦全を恥ず (立派な男というものは、たとえ玉となってくだけ散る ようなことになっても、かわらとなって生きながらえるのを 恥とするものである。)」という諺がひらめきました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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