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巡洋艦大淀 横須賀到着 [巡洋艦大淀]

 汽車は、やがて家屋の密集した中を進んで いきました。大小さまざまなビルが見え出し、 何両も連結された電車が走っていました。 この電車の乗客は、誰も手など振って くれませんでした。  どこへも止まらず走り続けてきた列車が、 目的地の横須賀に着きました。すぐ近くが、 軍港なのか、マストのようなものが見えま したが、高い塀に囲まれており、中は 見えませんでした。  引率されて行くと、水兵服や下士官など、 海軍さんが一杯いました。始めて見る軍港街に 胸をときめかせながら、歩いていきました。 市内の旅館に着くと、明日の行動予定が 言い渡され、入団に際しての訓示なども ありました。  終わると夕食になり、その後、自由外出が 許されました。小淵氏は5人ほどで出掛け、 近くにある海に向かって駆け出して いました。コンクリートの堤防が見え だす頃、磯の香り鼻をつきました。  ひんやりとした臭いで、これが海岸特有な ものだということは聞いていましたが、これほど 強烈なものとは思っても見ませんでした。 夕闇に包まれ始めた海岸では、雄大な イメージはないものの、小淵氏は、生まれて 始めて海を見ました。  岸壁に小舟が繋がれており、二人の入団者が 飛び乗りました。動力は着いておらず、甲板に 二箇所の四角い入口があり、蓋がしてありました。 この船は、何かを積んで引っ張ってもらう運搬船 だろうと判断しました。  小淵氏も乗ってみましたが、暗く何もわかりません でした。蓋をしめて、皆で逃げていきました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 群馬を出る [巡洋艦大淀]

 人々は、小淵氏ら出生する人に対し、 歓呼の声援を惜しみませんでした。  町の国民学校生徒の演奏する軍艦マーチが 勇ましく、なりだすと、「万歳」の連呼もひときわ 激しくなりました。  全員が乗り終えると、バスは静かに動き 出し、人々は小旗を振って、あらん限りの 声援を送ってくれました。見送りの中を ぬけると、バスは速度をあげ、歓呼の声も たちまち遠ざかっていきました。  入団者の中には、小淵氏と同年齢の者が 5名いました。みな、国民学校当時からの知り 合いで、中之条町から2名、大田村から3名 いました。また、沢田村から一学年上の人が 一人いました。  高崎に着いた入団者は、駅前の油屋旅館に 入り、明朝の汽車で横須賀に向かうことに なります。夕食が済み、年少組はひとかたまりに なって、海軍のことを話し始めました。  「海軍は陸軍より進級が遅いそうだ。」「食事は 海軍の方がいいと言うぜ。」と他愛ないことを、 言っていました。夜は更けましたが、皆はしゃぎ まわり、中々寝つけませんでした。  翌朝、群馬県内の入団者を乗せた特別列車は、 高崎駅を出発しました。赤城、榛名、妙義の上毛 三山は、朝日に映え、男一生の晴れ姿を見送って いるように思え、晴れがましかったとしています。  穂の出揃った稲田と桑の青葉の中、列車は 快調に進んでいきました。行き交う汽車の窓から、 出征兵と知ってか、盛んに手や帽子を、ハンカチ などが振られました。  見ず知らずの人達から送られる激励に、 若い血潮はたぎりました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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