SSブログ

巡洋艦大淀 ずるい考えは一切通用せず [巡洋艦大淀]

 体力の限界で草むらに倒れている兵隊を 見た小淵氏は、不思議なことに気が楽になり、 「俺は、何が何でも走り抜くぞ。」と、ムラムラと 負けん気が湧いてきました。  持っているものをみんな放り投げたいほど 辛く、苦しい状態でした。列から離れて道端に ぶっ倒れたい誘惑を押さえに押さえました。 一歩列から抜け出せば終わりだと考え、 負けてなるものかとと、気力を振り絞りました。  気力だけで支えながら駆けていると、やがて、 江ノ島を右手に見ながら駆けるようになり、その 頃にはだいぶ速度が鈍っていました。それが、 並足になり、銃を吊皮で下げて良いことに なりました。それまでに数十人が落伍していました。  そして、しばらく行くと、休憩となりました。みな、 道端にへたり込みました。のどはカラカラで、夢中で 水筒の栓を抜き、生ぬるい水を飲みましたが、 それがうまく感じました。  水も重量になるので、あまり入れてこない者が 多いようでした。中には、最初から空っぽの者も いました。仲間を当てにしても、誰も乏しいので、 分け与えることはありませんでした。ずるい考えは、 海軍では一切通用しませんでした。  集合の号令がかかりました。15分位の休憩 でしたが、若い体は、蘇生したように元気を 取り戻し並足の速さの行軍となりましたが、 海兵団までまだまだありました。  軍歌行軍が命じられ、分隊ごとに一定の距離を とり、歌いながらの行軍でしたが、口をきくのも 辛いほど疲れ切っているので、勇壮な軍歌も この日ばかりは、あまり覇気がありませんでした。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
nice!(0)  コメント(0) 

巡洋艦大淀 終わらない駆け足 [巡洋艦大淀]

 集合ラッパが鳴り、素早く整列すると、 これから二軍に分かれて追撃戦を行うと いうことでした。  兵科分隊が追撃軍となり、逃げまわった 分隊が先発してから、前衛・本体・後衛の 順で、十分後に発進しました。  かなり早い駆け足で、始めのうちは 気軽に走っていましたが、いつもと違う ことに気づきました。次第に速度が上がり 苦しくなり始めました。  逃げる方も、対抗意識を燃やして、 かなりのスピードで駆けているよう でした。2km、3kmと駆けましたが、 まだ止まりませんでした。  それどころか、ますます速くなりはじめ ました。小淵氏は、これは大変だぞと、 気軽な足並みが真剣になりました。  5kmくらい駆け、頭がジーンとしびれる ようになり、銃を支えている手の感覚が なくなってきました。苦しくて眼が眩み、 一瞬闇の中をさまよっているような 感覚に落ち込みました。  ハッとして眼を開くと、右も左も同じように 喘ぎながら駆けていました。「追撃止め。」の 号令を、今か今かと期待しながら駆けて いましたが、そんな号令は、一向に かかりませんでした。  銃が肩にめり込み、上半身が麻痺して いるようでした。知らずのうちに銃が水平に なり、後の者がつき起こしました。遠くに 見えていた江ノ島が次第に近づいて きました。  しかし、号令はかかりませんでした。 前衛の者か、逃げ回っている分隊のものか 解りませんでしたが、道路端の草むらの中に 倒れていました。それが、二人、三人と 数を増やしていきました。  体力の限界でした。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。