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巡洋艦大淀 戦場近し [巡洋艦大淀]

 静かな洋上もやがて暮れていきましたが、 艦隊は輪形陣のまま、依然南下を続けて いました。  薄暮れから、見張り当直に立っていた 小淵氏は、防空指揮所の双眼鏡台に つきました。  艦隊が変針したので、伊勢の右舷が 見え始めました。その時、伊勢の舷窓から 灯火の明かりが漏れてるのを見張員が 見つけ、赤外線の発光信号で、注意 しました。  このような薄暮れの洋上を進撃する戦艦や 空母を眺めていると、艦隊に塗られた灰色が、 不気味な凄絶さを感じさせました。一瞬、 地獄の使者の行進かというような戦慄を、 覚えさせられました。  22日の夜が明けました。午前5時20分、 突如配置に付けのラッパが、けたたましく 鳴り響きました。大急ぎで戦闘配置に 飛び込むと、艦内スピーカから、 「敵潜水艦の潜望鏡発見」の 報せがありました。  その後は、何の音沙汰もなく、ほどなくして 配置に付けは解除されました。側衛の駆逐艦が、 潜望鏡を発見し、急遽それに向かいましたが、 逃げ去った後らしく、所在は確認されません でした。戦場近しの空気が、ただよい 始めました。  この頃から、洋上はだいぶうねりが出て、 艦内も蒸し暑くなってきました。しかし、 冷房をするほどの暑さではありません でした。こうして、さらに南下して行く 艦隊の先頭になっていた時、大淀の 見張台から、大型機発見の報告が ありました。  しかし、それは味方の二式大艇で、海面 スレスレに飛んでいたものが、すぐに水平線の 彼方に消えてしまいました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 囮艦隊 [巡洋艦大淀]

 司令部からきた秘密命令書は、「味方 遊撃部隊の突入を容易ならしめりため、 敵機動部隊がレイテ周辺よりでき得る かぎり、北方に誘致せしむべし。」  という簡略なものでした。  これを見た小沢中将は、「このような、 なまぬるいことでは、作戦の勝利は おぼつかない。」として、各艦の首脳を 旗艦の瑞鶴に招集し、敵機動部隊と 刺し違えて果てる覚悟のほどを 披瀝して、決意をうながしました。  並みいる各艦の首脳は、小沢中将の 覚悟の程を知り、死を決して艦に戻り ました。小淵氏ら、兵や下士官は、 無論そのような軍規に関することを 知る由もありませんでした。  小淵氏がこの時知っていたことは、 レイテ島に敵の大群が上陸し、その 援護に機動部隊や多数の艦艇が 集結しているという漠然とした敵情と、 その敵に連合艦隊が総攻撃をかける ということくらいでした。  大和ら遊撃部隊が、どのようなルートで レイテに向かっているのかも、大淀が所属 している機動部隊にどのような使命のもとに 出撃したのかも知らされていませんでした。  当然ながら、機動部隊が囮艦隊である ということは、夢にも考えていませんでした。  10月21日、快晴の秋空の下を、機動 部隊は南下していました。洋上は全く 穏やかで、艦隊をさえぎるものは、何も 存在しませんでした。  昨夜から、第二戦闘配備になっているので、 小淵氏らは、待機所につめていましたが、 当直時以外は眠っていました。航行中の 戦闘分隊員は、当直時以外はほとんど 寝ているのが常でした。  艦内は、いつもの航行と変わりがありません でした。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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