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山口多聞 蒼龍一番機発艦 [山口多聞]

 山口少将は、「興国の荒廃この一戦にあり。
その気概を忘れず存分に働き、武人としての
本懐を遂げて欲しい。

 諸子が、元気で帰ってくるのを、本職は、
首を長くして待っている。頼むぞ。」と、
搭乗員に思いを伝えました。

 搭乗員の目に熱いものが浮かびました。
唇を強く吻合し、凛々しく敬礼しました。
愛機に向かって、駆ける姿を見送った
山口少将は、胸に手を当てて心を
静めました。

 視界が、涙で曇りましたが、部下の前で涙は
禁物であり、指でそっと拭いて艦橋に入りました。

 厳しい顔に戻った山口少将は、飛行甲板より
一段上にある下部甲板に上がると、テラス式の
発着艦指揮所に出ました。腕時計を覗くと、午前
1時半(ホノルルは午前6時)となっており、
日の出まで後30分でした。

 旗艦赤城のマストに、強風にはためきながら
信号旗が揚がりました。各艦の幕僚は、艦橋
から双眼鏡で確認していました。

 やや間があって、信号旗が降ろされ、戦闘旗が
揚がりました。発着指揮所から青ランプの信号灯が、
円を描いて振られました。

 「発艦!」と柳本艦長が叫び、飛行長が
繰り返しました。整備員によって、車輪
止めのチョークが払われました。第二
航空隊の一番機は、蒼龍の第三制空隊を
率いる菅波大尉の零戦でした。

 零戦は、周りのエンジン音とは異なる
凄まじい爆音をあげ、甲板を突っ切り
ました。山口少将は、無事に発艦して
くれと祈りました。山口少将が目を開くと、
船首の手前でふわりと浮上しました。

 零戦は、爆音を轟かせ、急上昇しながら
左に旋回して行きました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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山口多聞 発艦直前 [山口多聞]

 飛行甲板の上に、格納庫から上げられた
第一次攻撃隊の艦上機が、三列に肩を
寄せ合って、轟音を唸らせて暖機運転を
していました。

 艦上機は、いずれもずり落ちないように、
甲板に埋め込まれた眼環から伸びた
係止索によって両翼をつながれて
いました。

 日本海軍では、フロートつきの水上機を
艦載機、空母に搭載されている戦闘機や
攻撃機を艦上機と呼んで、区別して
いました。

 山口少将が乗る蒼龍には、艦上攻撃機は、
18機搭載されていましたが、この内10機は、
高高度による水平爆撃隊で、800kg徹甲
爆弾を抱えていました。残り8機は、雷撃機で、
水平安定板付きの魚雷を吊っていました。

 6隻の空母に搭載された艦上機は、零戦隊が
43機、水平爆撃隊49機、雷撃機40機、急降下
爆撃隊51機の合計183機でした。急降下爆撃隊は、
航空基地を叩くことになっていました。


 1941年12月8日午前1時、重巡洋艦
利根と筑摩からオアフ島の直前偵察の
ために水上機2機がカタパルトから
発進しました。

 海面は真っ暗ですが、東の空は白み始めて
いました。暁の水平線が朱に染まるのは
もうすぐでした。

 午前1時20分、機動部隊は風上に向かい
ました。搭乗員は、艦橋前で武者震いしながら、
固唾を飲んで発進の時を待っていました。
山口少将は、こみ上げてくる熱情を抑え
きれなくなりそうでした。

 本来なら、鬼の形相の方が合っていますが、
あえていつもの温顔を崩さないように、努めて
いました。

 笑顔で送り出すことは出来ませんでしたが、
搭乗員への思いは伝えようと思っていました。


紹介書籍:山口多聞 空母「飛龍」と運命を共にした不屈の名指揮官
著者:松田 十刻(まつだ じゅっこく)
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