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巡洋艦大淀 荒天時の見張り [巡洋艦大淀]

 昼近くなり、「荒天準備」の号令が なされました。上甲板への出入口は、 完全に締め切られました。  しかし、通気口からも海水が流れ込む ので、艦内の換気は止められ、通気口も シートで覆われました。  甲板上は、波浪が滝のように洗って いました。見張台も吹きつけるしぶきで、 当直者は雨衣を着ていても、濡れ鼠と なりました。  小淵氏は、これだけ荒れた海は 初めての経験でした。1万t以上の 軍艦が、木の葉のように激しく揺れる とは想像もできませんでした。  寝ている人もシートごと滑り出す 有様で、吊床の方が良さそうでした。 夜食には、珍しく汁粉が出ましたが、 小淵氏の胃袋は、30分と保たず、 船酔いと一緒に出てしまいました。  こんな激しい嵐の時は、何もしないで 寝ていたい気分でしたが、朝食が済むと 見張り当直がまわってきました。本来、 見張台にいれば、波しぶきは浴びますが、 船酔いはおさまりそうでした。  しかし、このときの当直は艦橋で、 風防ガラスで覆われて、しぶきが かかることはありませんでした。  艦橋には、篠田艦長と、内田航海長が つめていました。すぐ脇の双眼鏡についた 小淵氏は、緊張しながら見張りにつきました。  艦が激しく揺れている時に、双眼鏡を 覗いていると、目がまわり、頭の中を 何かでかき回されているような不快感が、 襲ってきました。  そのような時に、艦長と航海長の会話が 聞こえてきました。「今日はよくかぶりますね」 「気持ちの良い揺れ方だ」「これくらい揺れて くれると食事も進みますね」「申し分ないね。 昼食が待ち遠しい」というものでした。  小淵氏とは鍛え方が違うようでした。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 エメラルドブルーの海 [巡洋艦大淀]

 航海3日目の夜が明けました。当直 時間と食事の時以外は、誰も大概眠って いました。敵潜の雷撃もなく、航海は 平穏無事でした。  しかし、日没後、「トラック島が大空襲を 受けた」という噂が艦内に広がりました。 飛行場が奇襲され、300機の味方機が、 地上で撃破されたという、由々しき情報が 囁かれていました。  在泊艦にも被害があったようで、一緒に 碇泊していた輸送船団もだいぶやられた ことだと想像できました。大淀が、在泊して いたら、砲弾の3分2を陸揚げしていたので、 大変なことになっていました。  小淵氏は、あれほど整備された艦隊 根拠地が、大被害を受けたことは、 俄に信じられず、残念この上ないと しています。  航行4日目、無念な噂から一刻も早く 遠ざかりたいかのように、大淀は内地を 目指して突っ走っていました。艦内の 冷房が止められ、熱い南洋も、刻一刻と 遠ざかっていきました。  夜間の見張り当直に立った時、思わず 身ぶるいしました。吹きつける風が、肌を 刺すように冷たくなってきました。露天の 見張台に2時間も立つと、体が冷え切って きました。内地は今、最も寒い時期でした。  洋上は明け方から少し荒れてきました。 海の色が黒ずんで、寒々しく感じられ ました。鮮やかなエメラルドブルーの 海は、ずっと後方に去ってしまいました。  小淵氏は、エメラルドブルーの海を 想っただけで、暖かな感じがするとして います。そして、もう一度見る機会が あるだろうかと考えていました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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