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巡洋艦大淀 特攻隊勇士と子犬 [巡洋艦大淀]

 小淵氏の想像は続きました。  「暗黒の洋上にようやく敵艦の艦影が 現れました。ホッとして子犬を抱き上げ、 それを潜望鏡で見せてやる。子犬は、 敵艦などには見向きもせず、盛んに 顔をなめはじめました。  この子犬を抱きしめて、勇士は一直線に 敵艦の横腹目掛けて全速で突進するしか ない。しかし、回天はの速度はあまりにも遅く、 1秒が1分、いや10分にも20分にも感じる。  その間、無限の忍耐と勇気克己が要求 されます。そんな極限の孤独感を救って くれるのは、たとえ1匹の駄犬であろうとも、 生あるものではないだろうか。」  そのようなことを想像しながら、出撃する 潜水艦を祈るように見送りました。子犬を 抱いて艦内に消えた特攻隊員は、再び 艦外に姿を見せることはなく、ただ、 南無八幡大菩薩と大書きした菊水の 幟だけがなびいていました。  見送るものはまばらで、あまりにも静かな 出撃風景でした。基地では毎度のことであり、 もうことさら見送りなどはしなくなったというので あろうかとしています。  「沖縄では、激しい攻防戦が展開され、 日本本土の各都市はB29や敵の艦載機 などの空襲が相次ぎ、主要都市は焼け 野原になってしまった。」という衝撃的な 情報が囁かれました。  そのような戦況下の時に、誰もがあき らめていた休暇が許可されました。 乗組員にとって褒賞二度目の休暇 でした。3月2日に人員割が発表され、 乗組員の4分の1づつが交代で帰郷と なりました。小淵氏は第二陣となりました。 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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巡洋艦大淀 特殊潜航艇回天 [巡洋艦大淀]

 小淵氏が、艦外作業の時に見たのは、 特殊潜航艇回天を2隻搭載した潜水艦 でした。司令塔には、南無八幡大菩薩の 幟がひるがえっていました。  その潜水艦に、鉢巻を締めた若い人が、 子犬を抱いて乗り込んでいきました。 飛行服のような服装なので階級は わからないものの、21か22歳の 予科練の勇士か、兵学校出の 若い士官のようでした。  大事に抱いている子犬はどこかで 拾ってきたのか、生まれて1ヶ月くらいの、 どこでも見かけるような駄犬でした。この 潜水艦は、沖縄近海に集結している 敵艦隊の襲撃に向かうようでした。  その洋上で、回天は切り離され、 敵艦に体当たりするまで暗黒の中の 孤独を、この子犬がどんなに勇士を 慰めてくれるのだろかと考え、小淵氏は、 その状況を想像しました。  「潜水艦から切り離された回天は、 暗黒の海中を突進していく、スクリューの 響きが重苦しく伝わり、鼓膜も敗れるほど 艇内の気圧が高い。ずいぶん長いこと 突進したものの、敵艦は、見えない。  変だと思っても、回天は一旦発進したら、 戻る可能性はありませんでした。この時、 艇内の子犬が、親を恋しがってクンクン 鳴き出す。その鳴き声で張り詰めていた 気分がほぐれ、若い勇士は足でミルクの 皿を子犬の鼻面に押しやる。  子犬は、それをピチャピチャとなめ 始める。潜水艦から発進するときは、 間違いなく敵艦の方位に発進したの だからと、なおも突進していきました。」 紹介書籍:“巡洋艦「大淀」16歳の海戦 少年水兵の太平洋戦争” 著者: 小淵 守男
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